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口腔灼熱症候群は神経障害性疼痛か:診断と治療選択にどう活かすか(Burning Mouth Syndrome)

更新日:5月14日

はじめに

 舌がヒリヒリする、口の中が焼けるように痛い、しかし歯や口腔粘膜には明らかな異常がない。このような症状は、口腔灼熱症候群または Burning Mouth Syndrome と呼ばれ、近年では神経障害性疼痛の観点からも注目されています。


Opening Summary(導入・結論先出し)

 口腔灼熱症候群は、明らかな粘膜病変がないにもかかわらず、口腔内に持続的な灼熱感や異常感覚を生じる慢性疼痛疾患である。本記事では、Jääskeläinenによる2018年の総説をもとに、口腔灼熱症候群が神経障害性疼痛として理解できるかを臨床的に整理する。結論として、多くの症例では末梢性、中心性、またはその混合型の神経障害性疼痛として捉えることが妥当である。この視点は、口腔灼熱症候群を単なる心理的問題として扱わず、病態に基づいた診断と治療選択を行ううえで重要である。


Video Section

詳しい解説は以下の動画をご覧ください。



研究の概要

  • 研究デザイン

    口腔灼熱症候群に関する神経生理学的、心理物理学的、神経病理学的、脳機能画像研究を統合した総説である。


  • 対象

    原発性口腔灼熱症候群の患者を対象とした既報研究が中心である。明らかな粘膜病変、感染、全身疾患、薬剤性要因などによる二次性の灼熱症状とは区別される。


  • 介入/評価方法

    定量感覚検査、舌粘膜生検、味覚電気検査、脳幹反射検査、三叉神経関連の神経生理検査、機能的脳画像、神経伝達物質画像検査などが検討されている。


  • 評価項目

    小径神経線維障害、温冷覚の低下、三叉神経系の異常、中枢性疼痛調節の低下、ドパミン系機能、精神心理的併存症、局所麻酔や外用療法への反応性が評価されている。


主な結果

  • 主な結果

    口腔灼熱症候群の多くでは、通常の口腔診察やベッドサイドの感覚検査が正常であっても、精密検査では神経障害性変化が確認される。


  • ポジティブな所見

    定量感覚検査では、多くの患者で温覚・冷覚の低下が認められる。舌粘膜生検では、上皮内神経線維密度の低下が報告されており、三叉神経領域の小径線維ニューロパチーを示唆する。

    また、脳幹反射や脳機能画像では、下降性疼痛抑制系の低下や中枢性疼痛調節の異常が示されている。


  • 否定的/一貫しない所見

    すべての患者に同じ異常が認められるわけではない。末梢神経障害が主体の症例もあれば、中枢性疼痛調節の障害が主体の症例もある。

    そのため、口腔灼熱症候群を単一の病態として扱うと、診断や治療反応のばらつきを説明しにくい。


臨床的解釈

 口腔灼熱症候群の臨床で最も重要なのは、「見た目に異常がないこと」と「神経障害性疼痛ではないこと」を混同しないことである。口腔粘膜に潰瘍、白斑、紅斑、感染、腫瘍性病変が認められない場合でも、患者が訴える灼熱痛は実在する神経系の機能異常によって説明され得る。

 従来、口腔灼熱症候群は心理的要因との関連が強調されることが多かった。しかし、本総説で整理された知見は、少なくとも多くの症例において、末梢神経または中枢神経の障害を背景とする疼痛疾患として理解すべきことを示している。これは、患者説明においても重要である。「検査で異常がないから問題ない」「気のせいである」と説明することは、病態理解としても臨床対応としても不十分である。

 末梢型の口腔灼熱症候群では、舌粘膜や口腔粘膜の小径神経線維障害が病態の中心となる可能性がある。特に、冷覚や温覚を担う線維の機能低下が示されている点は重要である。通常、冷覚に関わる線維は、痛みに関わる侵害受容線維の活動を抑制する方向に働くと考えられる。この抑制が低下すると、相対的に灼熱感や痛みが顕在化しやすくなる。つまり、口腔灼熱症候群の痛みは、単に「神経が過敏になっている」という単純な説明ではなく、「一部の感覚入力が失われることで痛みの抑制が外れる」という機序でも理解できる。

 一方で、中枢型の口腔灼熱症候群では、脳幹や基底核を含む疼痛調節ネットワークの異常が関与する可能性がある。特に、ドパミン系の機能低下は、下降性疼痛抑制の低下、慢性疼痛の持続、抑うつや不安との併存を説明する重要な仮説である。ここで注意すべきなのは、抑うつや不安があるから痛みが心理的である、という意味ではない。むしろ、疼痛調節系と情動調節系が共通の神経基盤を持つため、痛みと精神心理的症状が並行して出現する可能性がある。

 結果が一貫しない理由は、口腔灼熱症候群が均質な疾患ではないためである。ある患者では末梢の小径線維障害が主体であり、別の患者では中枢性疼痛調節の障害が主体である。さらに、両者が重なっている症例も少なくない。この病態の多様性が、治療反応のばらつきにつながる。

 臨床的には、末梢型が疑われる患者では、局所麻酔ブロックや外用療法への反応が参考になる可能性がある。局所麻酔で症状が軽減する場合、末梢入力が痛みに大きく関与していると考えやすい。一方、局所麻酔で改善しない、あるいはかえって不快感が増す場合には、中枢型または混合型を考える必要がある。

 適応が考えられるのは、明らかな歯原性疾患や粘膜疾患が除外され、慢性的な灼熱感、異常感覚、味覚異常、口腔乾燥感を訴える症例である。特に、一般的な歯科治療を繰り返しても改善しない場合、非歯原性疼痛として再評価すべきである。

 一方で、適応が乏しい、または慎重な鑑別が必要なケースもある。カンジダ症、扁平苔癬、口腔乾燥症、栄養欠乏、糖尿病、薬剤性口腔乾燥、義歯不適合、アレルギー、口腔粘膜疾患などが疑われる場合は、まず二次性の灼熱症状を除外する必要がある。口腔灼熱症候群という診断は、「原因がわからないから付ける診断」ではなく、鑑別診断を丁寧に行ったうえで成立する診断である。


臨床での実践的な使い方

 口腔灼熱症候群を疑うべき状況は、口腔内に明らかな器質的病変がないにもかかわらず、3か月以上にわたり灼熱感や異常感覚が持続する場合である。特に、舌尖部、舌縁、口蓋、口唇粘膜などに持続的な焼けるような痛みを訴え、通常の歯科治療で改善しない場合は注意が必要である。

 治療においては、完全な即時消失を期待するよりも、症状の軽減、日常生活への影響の低下、増悪因子の把握を目標とすべきである。患者には、慢性疼痛としての性質、神経障害性疼痛としての可能性、治療反応に個人差があることを説明する必要がある。

 末梢型が疑われる場合には、局所的な治療、外用薬、口腔粘膜への刺激管理が選択肢となる。クロナゼパム外用やカプサイシンなどが検討されることがあるが、適応と副作用を慎重に判断する必要がある。中枢型が疑われる場合には、薬物療法だけでなく、疼痛教育、睡眠管理、心理的併存症への対応、専門的な慢性疼痛治療との連携が重要である。

 一般歯科治療との位置づけも明確にすべきである。口腔灼熱症候群は、むし歯、歯周病、根尖病変、咬合異常だけで説明できる疾患ではない。不要な歯科処置を繰り返すことは、症状改善につながらないだけでなく、患者の不安や医療不信を強める可能性がある。したがって、歯原性疼痛と非歯原性疼痛を区別し、必要に応じて口腔顔面痛や口腔内科の専門外来へ紹介することが実践的である。


限界と注意点

 本論文は総説であり、単一のランダム化比較試験ではない。そのため、提示されている病態モデルは複数の研究結果を統合した仮説的枠組みであり、すべての患者にそのまま適用できるわけではない。

 また、定量感覚検査、舌粘膜生検、神経生理検査、脳機能画像などは、一般臨床で常に実施できる検査ではない。したがって、日常診療では、病歴、症状分布、口腔内所見、鑑別診断、治療反応を組み合わせて慎重に判断する必要がある。

 さらに、口腔灼熱症候群には末梢型、中枢型、混合型が存在する可能性があるため、単一の治療で全例に効果を期待することは適切ではない。治療効果が乏しい場合には、診断の見直し、二次性要因の再評価、疼痛専門医療との連携が必要である。


まとめ(Key Takeaways)

  • 口腔灼熱症候群は、明らかな粘膜病変がなくても神経障害性疼痛として理解できる症例が多い。

  • 病態には、末梢の小径線維障害と中枢性疼痛調節の異常が関与する可能性がある。

  • 末梢型と中枢型では、局所治療や全身的疼痛管理への反応が異なる可能性がある。

  • 抑うつや不安の併存は、痛みが心理的であることを意味せず、疼痛調節系の異常と関連している可能性がある。

  • 一般的な歯科治療で改善しない灼熱痛では、非歯原性疼痛として専門的評価を検討すべきである。


Clinical Pearl

口腔灼熱症候群では、「正常な口腔内所見」は「正常な神経機能」を意味しない。


メッセージ

■ 患者向け

 長期間続く原因不明の口腔内の灼熱感、舌のヒリヒリ感、味覚異常、口腔乾燥感がある場合、通常の歯科治療だけでは改善しないことがある。むし歯や歯周病、粘膜疾患が見つからないにもかかわらず症状が続く場合、口腔灼熱症候群や神経障害性疼痛の可能性を考える必要がある。何度も治療を受けても改善しない場合は、口腔顔面痛や口腔内科の専門的評価を受けることが望ましい。


■ 医療従事者向け

 明らかな歯原性病変がない慢性口腔痛では、非歯原性疼痛を鑑別に含める必要がある。特 に、持続する灼熱痛、異常感覚、味覚異常、口腔乾燥感を伴う症例では、口腔灼熱症候群および神経障害性疼痛の可能性を検討すべきである。抜髄、再根管治療、咬合調整、補綴再製などを繰り返す前に、口腔顔面痛専門外来、口腔内科、疼痛専門診療への紹介を考慮することが重要である。


English Summary

Burning Mouth Syndrome is characterized by chronic intraoral burning or dysesthetic sensations without clinically evident mucosal lesions. The reviewed article argues that, despite normal routine clinical findings, many patients show evidence of neuropathic involvement when assessed with advanced diagnostic methods. Peripheral mechanisms include small fiber pathology of the oral mucosa, while central mechanisms involve impaired pain modulation and dopaminergic dysfunction. Clinically, BMS may be divided into peripheral, central, or mixed subtypes, which may explain variable treatment responses. A neuropathic framework helps clinicians avoid dismissing symptoms as purely psychogenic and supports mechanism-based management.Referral should be considered when oral burning pain persists despite exclusion of dental, mucosal, systemic, and medication-related causes. Patients with suspected non-odontogenic or neuropathic orofacial pain may benefit from evaluation by specialists in orofacial pain or oral medicine.


Source

Jääskeläinen SK. Is burning mouth syndrome a neuropathic pain condition? Pain. 2018 Mar;159(3):610-613. PMID: 29257770.


本記事は、口腔灼熱症候群に関する一つの総説論文をもとに、その内容と臨床的意義を解説するものです。口腔灼熱症候群の病態は一様ではなく、末梢性、中枢性、混合型など複数の機序が関与する可能性があります。実際の診断や治療方針は、個別の診察、鑑別診断、症状経過に基づいて判断される必要があります。

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