top of page

バーニングマウス症候群(Burning Mouth Syndrome)に対する局所アミトリプチリン療法:経口投与が困難な患者の新たな選択肢となるか?

8月26日
読了時間: 6分

はじめに

 バーニングマウス症候群(Burning Mouth Syndrome)は、舌や口腔粘膜にヒリヒリした灼熱感が続く慢性口腔痛疾患です。本記事では、近年注目されている局所アミトリプチリン洗口療法について、最新の研究結果と臨床的意義を解説します。


Opening Summary(導入・結論先出し)

 バーニングマウス症候群(Burning Mouth Syndrome: BMS)は、有効性が確立した治療法が限られる慢性口腔顔面痛疾患である。本研究は、三環系抗うつ薬アミトリプチリンを内服ではなく局所洗口剤として使用した際の有効性と安全性を検討した。約半数の患者で50%以上の疼痛軽減が認められ、副作用は少数かつ軽度であった。エビデンスレベルは高くないものの、内服アミトリプチリンの副作用が問題となる患者において、局所投与が有望な治療選択肢となる可能性を示唆する研究である。


Video Section

詳しい解説は以下の動画をご覧ください。


研究の概要

  • 研究デザイン

    • 後ろ向き観察研究(Retrospective Real-World Evidence Study)

  • 対象

    • BMSと診断された15名

    • 全員女性

    • 平均年齢62.1歳

    • 93%が閉経後女性

    • 平均罹病期間24.4か月

  • 介入/評価方法

    • アミトリプチリン40 mg/mL製剤を希釈

    • 5滴(5 mg)を20 mLの水に混和

    • 2分間口腔内で保持後に吐き出す(swish and spit)

    • 1日2回、8週間使用

  • 評価項目

    • 主要評価項目:疼痛強度(NRS)

    • 副次評価項目:患者自己評価(PGI-I)、有害事象、安全性


主な結果

  • 主な結果

    • 平均疼痛スコアは6.7から3.7へ低下

    • 平均改善量は3.1ポイント

    • 約40%の疼痛軽減を認めた

  • ポジティブな所見

    • 15例中8例(約53%)で50%以上の疼痛軽減

    • 7例が「非常に改善した」と回答

  • 否定的/一貫しない所見

    • 残りの患者では有意な改善がみられなかった

    • 効果は均一ではなく、明確なレスポンダーとノンレスポンダーに分かれた


臨床的解釈

 本研究で最も興味深い点は、平均改善率そのものではなく、「約半数の患者が大きく改善し、残り半数はほとんど改善しなかった」というレスポンダーパターンである。

近年、BMSは単一疾患ではなく、異なる病態メカニズムを含む症候群として理解されつつある。


特に、

  • 末梢神経障害優位型

  • 中枢感作優位型

  • 両者が混在する型

が存在する可能性が指摘されている。


 局所アミトリプチリンが有効であった患者群では、口腔粘膜や舌における末梢神経機能異常が症状発現に大きく関与していた可能性がある。研究著者らは、BMS患者の舌粘膜で電位依存性ナトリウムチャネル(Nav1.7、Nav1.9)が過剰発現していることに着目し、アミトリプチリンの局所作用がこれらの末梢侵害受容機構を抑制している可能性を考察している。

 また、TRPV1(カプサイシン受容体)やTRPA1といった疼痛関連受容体もBMS病態に関与していることが知られており、局所投与による直接的な神経調節作用という仮説は生物学的妥当性を有する。


一方で、効果がなかった患者では、

  • 中枢神経系の感作が主体

  • 心理社会的要因の寄与が大きい

  • 末梢神経異常の程度が軽い

などの可能性が考えられる。


 したがって本研究は、「局所アミトリプチリンはBMS全体に効く治療」ではなく、「特定の病態サブグループに有効な可能性がある治療」と解釈するのが妥当である。


さらに臨床的に重要なのは、副作用プロファイルである。内服アミトリプチリンでは、

  • 眠気

  • 口腔乾燥

  • 便秘

  • 認知機能低下

  • 心血管系副作用

などが問題となることが多い。


 特に高齢女性が多いBMS患者では忍容性が課題となる。一方、本研究では副作用は27%に留まり、すべて軽症であった。

 これは、内服アミトリプチリンを中止せざるを得なかった患者に対しても、局所投与であれば再挑戦できる可能性を示している。


臨床での実践的な使い方

局所アミトリプチリンは以下のような症例で検討価値がある。

  • 内服アミトリプチリンで副作用が強い

  • 高齢者で抗コリン作用が懸念される

  • 舌痛が主体で局在性が明確

  • 他の局所治療で十分な効果が得られない


 期待値としては、「全員に効く治療」ではなく、「約半数で大きな改善が期待できる可能性がある治療」と説明するのが現実的である。


現在の位置づけとしては、

  • 認知行動的アプローチ

  • クロナゼパム局所療法

  • ガバペンチン局所療法

  • カプサイシン療法

  • 全身薬物療法

などと並ぶ補助的選択肢と考えるべきであり、第一選択として推奨できる段階ではない。


限界と注意点

  • 症例数は15例と極めて少ない

  • 後ろ向き研究である

  • 無作為化されていない

  • プラセボ対照群が存在しない

  • BMSでは自然変動やプラセボ効果が大きい

  • 長期効果は不明

  • 実際の局所吸収量や全身曝露量は評価されていない

したがって、本研究のみで有効性が証明されたとは言えない。著者らも、本結果は今後のランダム化比較試験を行うための予備的データとして位置づけている。


まとめ(Key Takeaways)

  • 局所アミトリプチリン洗口療法はBMSに対する新しい治療候補である。

  • 約半数の患者で50%以上の疼痛軽減が認められた。

  • 副作用は少なく、すべて軽症であった。

  • 効果には大きな個人差があり、病態サブタイプの存在を示唆する。

  • 現時点では有望なシグナルであり、確立治療と位置づけるにはさらなる試験が必要である。


Clinical Pearl

内服アミトリプチリンが使えない患者でも、局所投与であれば疼痛緩和が得られる可能性があり、「アミトリプチリン=使用不可」とは必ずしも言えない。


Call to Action

■ 患者向け

 舌のヒリヒリ感や灼熱感が長期間続いているにもかかわらず、歯科検査で明らかな異常が見つからない場合、バーニングマウス症候群の可能性がある。また、抜歯や根管治療など一般的な歯科治療を受けても改善しない口腔内の痛みは、歯が原因ではない神経性疼痛であることも少なくない。

 症状が長引いている場合は、口腔顔面痛や口腔内科を専門とする医療機関への相談を検討していただきたい。


■ 医療従事者向け

 原因不明の口腔灼熱感や舌痛を認める患者では、非歯原性疼痛や神経障害性疼痛の可能性を考慮する必要がある。

特に、

  • 通常の歯科治療で改善しない

  • 画像所見と症状が一致しない

  • 慢性的に持続する口腔灼熱感を訴える

といった症例では、口腔顔面痛専門外来への紹介が診断および治療方針決定に有用となる。


English Summary

Burning Mouth Syndrome (BMS) is a chronic oral pain condition with limited evidence-based treatment options. This retrospective real-world study evaluated topical amitriptyline rinse therapy in 15 women with BMS over an 8-week period. Mean pain intensity decreased by approximately 40%, and about half of the patients achieved at least a 50% reduction in pain. Adverse events were infrequent and mild, including somnolence, dry mouth, and taste disturbance. The responder pattern suggests that topical amitriptyline may be particularly effective in a subset of patients, possibly those with greater peripheral neuropathic involvement. Because the study was small, retrospective, and uncontrolled, efficacy cannot be definitively established. Nevertheless, topical amitriptyline may represent a useful option for patients who cannot tolerate systemic amitriptyline or who require additional symptom management. Referral to an orofacial pain specialist should be considered when persistent oral burning symptoms remain unexplained or refractory to conventional dental treatment.


Source

Lebel A, Da Silva Vieira D, Boucher Y. Topical amitriptyline in burning mouth syndrome: A retrospective real-world evidence study. Headache. 2024 Oct;64(9):1167-1173. PMID: 39177013.


本記事は単一の後ろ向き観察研究を解説したものであり、局所アミトリプチリン療法の有効性を確立するものではありません。バーニングマウス症候群は複数の病態が関与する症候群であり、治療反応には個人差があります。診断および治療方針は、口腔顔面痛や口腔内科を専門とする医療機関での個別評価に基づいて決定されるべきです。

コメント


お問合せは下記フォームから

返信までしばらくお待ちください

info@akihiroando.com からのメールが受信できるように

してください

© 2022 Created by Spark Medical

bottom of page