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舌痛症では痛みを抑える機能が低下しているのか―中枢性・末梢性の違いと治療への示唆

9月9日
読了時間: 12分

はじめに

 舌がヒリヒリする、焼けるように痛む、口の中に灼熱感があるにもかかわらず、歯科検査や口腔粘膜の診察で明らかな原因が見つからない場合、舌痛症が鑑別に挙がります。近年では、症状のある部位だけでなく、神経系が痛みを抑える機能の変化が関与する可能性も研究されています。


Opening Summary(導入・結論先出し)

 舌痛症(Burning Mouth Syndrome:BMS)は、口腔内に明らかな器質的異常がないにもかかわらず、舌や口腔粘膜に灼熱痛が持続する慢性疼痛疾患である。

 今回取り上げる研究では、舌痛症患者の内因性疼痛抑制機能を条件付き痛覚調節によって評価し、局所麻酔への反応が異なる患者群を比較している。

 その結果、舌痛症患者の疼痛調節機能は一様ではなく、広範な中枢性疼痛抑制機能の低下を示す患者と、症状部位に比較的限局した異常を示す患者が存在する可能性が示された。

 臨床上重要なのは、舌痛症という診断名だけで治療を一律に決めるのではなく、患者ごとに末梢性要因と中枢性要因の関与を評価する必要があるという点である。


Video Section

詳しい解説は以下の動画をご覧ください。


研究の概要

  • 研究デザイン

     年齢および性別を対応させた健常対照群を用いた無作為化二重盲検比較試験である。舌痛症患者には、リドカインによる舌神経ブロックと生理食塩水によるプラセボ注射を、1週間の間隔を空けて無作為の順序で実施した。


  • 対象

     舌痛症患者20例と健常者22例が対象となった。舌痛症患者の平均年齢は52.0歳で、女性17例、男性3例であった。


  • 介入/評価方法

     舌神経ブロック前後の自発痛を視覚的評価尺度で測定した。リドカイン投与後の疼痛軽減が1センチメートル未満であった11例を「中枢性機序が推定される群」、1センチメートルを超えて軽減した9例を「末梢性機序が推定される群」と分類した。

     条件付き痛覚調節の評価では、左手を冷水に浸し、中等度の疼痛を誘発した状態で口腔内の感覚検査を繰り返した。


  • 評価項目

     口腔粘膜における機械的疼痛閾値、反復刺激に対する時間的加重を反映する巻き上げ比、条件付き痛覚調節による各指標の変化を評価した。舌痛症患者では最も症状が強い部位と口腔内の対照部位を測定した。


主な結果

  • 主な結果

     条件付き痛覚調節を実施していない基準時点では、機械的疼痛閾値および巻き上げ比について、舌痛症患者と健常者との間に有意差を認めなかった。


  • ポジティブな所見

     健常者では68.2~81.8%に疼痛抑制反応が認められたのに対し、舌痛症患者で抑制反応を示した割合は18.2~44.4%にとどまった。

     中枢性機序が推定された患者では、症状部位だけでなく口腔内の対照部位でも健常者より条件付き痛覚調節の効果が小さかった。

     末梢性機序が推定された患者では、条件付き痛覚調節の低下は主に症状部位で認められた。


  • 否定的/一貫しない所見

     すべての舌痛症患者で疼痛抑制機能が低下していたわけではない。正常な抑制反応を示す患者がいる一方で、変化が乏しい患者や、刺激によって痛みが増強する促通反応を示す患者も認められた。

     基準時点の感覚検査のみでは、舌痛症患者と健常者を明確に区別できなかった。


  • 冷刺激に関する所見

     同程度の中等度疼痛を誘発するために必要であった冷水温度は、舌痛症群で平均8.9度、健常群で平均11.9度であり、舌痛症群ではより低い温度が必要であった。これは舌痛症患者における感覚処理の変化を示唆する所見である。


臨床的解釈

この結果は臨床的に何を意味するのか

 本研究の重要な点は、舌痛症を単一の疼痛機序による疾患として扱うことの限界を示したことである。

 同じように「舌が焼ける」「口の中がヒリヒリする」と訴える患者であっても、その症状を維持している生理学的背景は異なる可能性がある。一部の患者では舌や口腔粘膜に関連する末梢神経系の異常が比較的強く関与し、別の患者では脳幹や大脳を含む中枢神経系の疼痛抑制機構の低下が関与している可能性がある。

 条件付き痛覚調節は、「ある部位に痛みが加わると、別の部位の痛みが抑制される」という内因性鎮痛機構を臨床研究上評価する方法である。健常者では下降性疼痛抑制系が働くため、試験刺激に対する痛みは通常軽減する。

 これに対して、本研究の中枢性機序が推定された舌痛症患者では、症状のある部位だけでなく対照部位でも抑制反応が低下していた。したがって、異常が舌局所に限定されず、より広範な疼痛調節ネットワークに及んでいる可能性がある。

 一方、末梢性機序が推定された患者では、異常が主に症状部位で確認された。これは、局所の侵害受容入力や末梢神経機能の変化が症状形成に関与している可能性と整合する。

 ただし、本研究で用いられた「中枢性」「末梢性」という分類は、病態を確定する診断ではない。局所麻酔への反応を利用して、優位な疼痛機序を間接的に推定した分類である。


なぜ結果が一貫しない可能性があるのか

 舌痛症患者の条件付き痛覚調節反応には大きな個人差が認められた。この不均一性には複数の要因が考えられる。

 第一に、舌痛症そのものが単一の疾患単位ではなく、複数の病態が同じ臨床症状として表現されている可能性がある。

 第二に、疼痛抑制機能は固定された性質ではない。睡眠、疲労、不安、抑うつ、注意、期待、服薬状況、痛みの持続期間などによって変動し得る。舌痛症では不安特性と下降性疼痛調節との関連を示した研究もあり、心理社会的因子は痛みを「心理的なもの」と断定する材料ではなく、疼痛調節系に影響する生物学的要因として評価すべきである。

 第三に、条件付き痛覚調節の結果は、使用する試験刺激、条件刺激、刺激強度、測定部位によって変化する。他の研究では、舌痛症患者と健常者で条件付き痛覚調節に差がなく、疼痛促通の増大が中心であったとの報告もある。したがって、現在のエビデンスから「舌痛症では一律に下降性疼痛抑制機能が低下する」と結論づけることはできない。

 第四に、末梢性機序と中枢性機序は相互排他的ではない。末梢から持続的な侵害受容入力が続くことで中枢神経系の反応性が変化することもあれば、中枢性疼痛調節の低下によって局所症状が増幅されることもある。実際の患者では両者が連続的に混在していると考える方が妥当である。


どのような患者に適応があるか

 本研究の知見は、特定の治療法の適応を直接示したものではない。しかし、病態機序を意識した評価が有用となる患者像は想定できる。

 局所の灼熱感が明確で、症状部位が比較的限定され、局所麻酔や局所的介入によって一時的に症状が変化する患者では、末梢神経系からの入力が相対的に強く関与している可能性がある。

 一方、症状範囲が広い患者、複数の口腔部位に痛みがある患者、頭痛・顎関節痛・全身性慢性疼痛などを併存する患者、刺激に対する過敏性が広範にみられる患者では、中枢性疼痛調節の関与を考慮する必要がある。

 また、一般的な歯科治療を繰り返しても改善しない場合や、治療対象となる局所病変と疼痛の強さが一致しない場合も、非歯原性疼痛や神経障害性疼痛、中枢性疼痛機序を再評価すべきである。


適応が乏しい可能性のあるケース

 局所麻酔への反応だけを根拠に、患者を中枢性または末梢性へ確定的に分類することは適切ではない。

 また、口腔カンジダ症、口腔乾燥、鉄・ビタミン欠乏、糖代謝異常、薬剤性口腔症状、口腔粘膜疾患、接触過敏、明らかな末梢神経損傷など、二次性の灼熱症状を起こす病態が除外されていない患者に、本研究の分類をそのまま適用することはできない。

 痛みの程度が日によって大きく変化する患者や、検査時の不安、睡眠不足、服薬などの影響が強い患者では、一度の疼痛調節検査がその患者の病態を代表しない可能性もある。


臨床での実践的な使い方

どのような状況で検討するか

 条件付き痛覚調節検査は、現時点では一般歯科診療で日常的に実施する確立した診断検査ではない。

 臨床では、検査そのものを導入することよりも、舌痛症患者の疼痛機序が均一ではないという考え方を診察に取り入れることが重要である。

 問診では、痛みの分布、発症様式、日内変動、食事による変化、味覚異常、口腔乾燥感、触刺激や温度刺激による変化、他部位の慢性疼痛、睡眠状態、心理社会的負荷を確認する。

 診察では、口腔粘膜疾患や感染症、唾液分泌低下、栄養欠乏、代謝性疾患、薬剤の影響を評価し、歯原性疼痛や明らかな局所病変を除外する必要がある。


どのような期待値で使うべきか

 疼痛機序の評価は、治療反応を完全に予測する検査ではない。目的は、患者を単純な二群に分類することではなく、治療方針を立てる際の仮説を形成することである。

 局所的な関与が疑われる場合でも、局所治療だけで十分とは限らない。反対に、中枢性機序が疑われても、局所の刺激因子や口腔乾燥への対応が不要になるわけではない。

 治療目標は「痛みを完全に消失させること」だけに限定せず、疼痛強度、生活への支障、食事、睡眠、不安、患者自身の対処能力を総合的に改善することに置くべきである。


他の治療との位置づけ

 舌痛症の治療は、原因検索、患者教育、生活指導、口腔乾燥への対応、薬物療法、心理学的介入などを組み合わせて行う。

 末梢性要因が疑われる場合には、局所的治療への反応を慎重に評価する余地がある。一方、広範な中枢性疼痛調節異常が疑われる場合には、中枢神経系に作用する薬物療法、睡眠への介入、認知行動的アプローチ、ストレス調整などを含めた多面的治療がより重要となる可能性がある。

 ただし、本研究は治療効果を検証した試験ではないため、条件付き痛覚調節の結果に基づいて特定の薬剤や治療法を選択すべきであるとまではいえない。

 歯の切削、抜髄、抜歯、補綴物の再製作などの不可逆的処置は、明確な歯原性病変が確認できない限り慎重に判断すべきである。


限界と注意点

 本研究の対象は舌痛症患者20例と小規模であり、中枢性機序が推定される群11例、末梢性機序が推定される群9例に分けると、各群の統計的検出力はさらに低下する。

 患者の分類はリドカインによる舌神経ブロック後の疼痛変化に基づいている。臨床的には興味深い方法であるが、中枢性・末梢性機序を直接測定したものではない。

 局所麻酔への反応は、注射手技、麻酔範囲、患者の期待、疼痛の日内変動、プラセボ反応などの影響を受ける可能性がある。

 条件付き痛覚調節は心理物理学的評価であり、個人内および個人間の変動が大きい。検査方法が異なれば結果も変化する可能性がある。

 本研究は横断的な関連を示したものであり、疼痛抑制機能の低下が舌痛症の原因なのか、慢性疼痛が持続した結果なのかは判断できない。

 今後は、より大規模な前向き研究、反復測定、神経画像検査、神経生理学的指標、生物学的指標、治療反応との関連を組み合わせた検証が必要である。


まとめ(Key Takeaways)

  • 舌痛症は、単一の疼痛機序で説明できる均一な疾患ではない可能性がある。

  • 一部の患者では、広範な内因性疼痛抑制機能の低下が症状の持続に関与している可能性がある。

  • 局所麻酔への反応がみられる患者では、末梢性入力の関与を考える手掛かりとなり得るが、確定診断にはならない。

  • 条件付き痛覚調節の異常はすべての患者に認められるわけではなく、他の研究結果とも完全には一致していない。

  • 舌痛症の診療では、診断名だけでなく、患者ごとの疼痛分布、感覚異常、併存症、心理社会的因子を統合して治療方針を立てる必要がある。


Clinical Pearl

舌痛症では「どこが痛いか」だけでなく、「神経系が痛みをどのように増幅し、どのように抑制しているか」を考えることが個別化治療の第一歩となる。


メッセージ

■ 患者向け

 舌や口腔内のヒリヒリ感、灼熱感、しびれ、違和感が長期間続いているにもかかわらず、歯科検査で明らかな原因が見つからない場合、症状は歯や粘膜だけの問題ではない可能性がある。

 一般的な歯科治療、補綴物の調整、抜髄、抜歯などを受けても改善しない口腔顔面痛では、非歯原性疼痛や神経障害性疼痛を含めた専門的評価が必要となる。

 原因が見えない痛みであっても、痛みが存在しないという意味ではない。口腔顔面痛や口腔内科を専門とする医療機関で、症状の分布、感覚機能、服薬、睡眠、心理社会的要因を含めた包括的評価を受けることが重要である。


■ 医療従事者向け

 明確な歯原性病変がないにもかかわらず口腔内の灼熱痛が持続する場合、非歯原性疼痛を鑑別に含める必要がある。

 歯科処置後も症状が持続する症例、局所所見と疼痛強度が一致しない症例、痛みの範囲が拡大する症例、感覚過敏や異常感覚を伴う症例では、神経障害性疼痛や中枢性疼痛調節異常の可能性を検討すべきである。

 不可逆的な歯科処置を追加する前に、口腔顔面痛または口腔内科の専門医療機関への紹介を検討することが望ましい。


English Summary

Burning mouth syndrome is a heterogeneous chronic orofacial pain condition with potentially different underlying pain mechanisms. This randomized, double-blind study compared conditioned pain modulation in 20 patients with burning mouth syndrome and 22 matched healthy controls. Patients were provisionally classified into central and peripheral subgroups according to their response to a lidocaine lingual nerve block. The presumed central subgroup showed reduced pain inhibition at both the symptomatic and control oral sites, suggesting a more widespread dysfunction of endogenous pain control. The presumed peripheral subgroup showed reduced modulation mainly at the symptomatic site, suggesting a more localized abnormality. These findings do not establish a definitive diagnostic classification or prove that impaired pain inhibition causes burning mouth syndrome. Clinicians should integrate pain distribution, sensory findings, comorbid pain, psychosocial factors, and responses to previous treatment rather than relying on the diagnostic label alone. Referral to an orofacial pain or oral medicine specialist may be appropriate when persistent oral burning remains unexplained or fails to improve after conventional dental care.


Source

Yang G, Jin J, Wang K, Baad-Hansen L, Liu H, Cao Y, Xie QF, Svensson P. Conditioned Pain Modulation Differences in Central and Peripheral Burning Mouth Syndrome (BMS) Patients. J Oral Rehabil. 2025 Apr;52(4):443-452. PMID: 39496500.


本記事は、舌痛症患者の条件付き痛覚調節を評価した一つの研究を取り上げ、その結果と臨床的意義を解説したものです。研究で示された疼痛機序が、すべての舌痛症患者に当てはまるわけではありません。また、局所麻酔への反応や条件付き痛覚調節の結果だけで、中枢性・末梢性の疼痛機序を確定することはできません。

舌や口腔内の灼熱感には、口腔粘膜疾患、感染症、口腔乾燥、栄養・代謝異常、薬剤の影響、末梢神経障害などの二次的原因が関与することがあります。診断と治療方針の決定には、これらを除外するための個別の臨床評価が必要です。本記事は、個別の診断や治療を代替するものではありません。

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